横須賀中央駅の近くの「越後」ってお蕎麦屋さんに入ったんだよ。

新潟の蕎麦は「へぎ蕎麦」といって、つなぎに海草を練り込んでいるのでツルツルして美味しい。

で、食べ終わった頃にお茶を注ぎに来たお姉さんに

「いや〜、美味しかったです!」と言ったら

「ありがとうございますっ♪」とニッコリしてくれた。

自分で言うのもなんだけど、俺はこういう場面での愛想がムチャクチャいい(笑)
だからどこの店でも一発で記憶される。次の週に行っても覚えられている。




そこでふと、考えた。

俺はいつから美味しいときに「美味しい!」と言うようになったんだろう?

実家では外食をする習慣があまりなかったし、父親も古い人間なので母の料理に「美味い」とか言うのを見たことがない。

だから俺ももともとはお店の人とコミュニケーションするなんて、発想すらなかったな。

席について、注文して、食べて、お金払って、帰るだけ。ニコリともせず。





それが変わったのは大学時代に出会ったある先輩の影響だ。


工学部なのに英語の他にロシア語も韓国語もベラベラに話せる、まるで北のエリート工作員のような男がいたんだよ。
で、なぜかほとんど初対面のその人と高田馬場の焼肉屋で時間を潰すことになった。
そんなに親しくもないのに、気まずいぜ。


おばあちゃんが一人でやってるような小さい店。
ところが、そこで初めて食べたピビン麺ってやつは美味かった!
冷麺とちがってスープじゃなくて、真っ赤な激辛のタレに麺が絡まってるんだよ。

で、俺は心の中で「うめえ!」と思っているけど、それだけなんだよ。津軽人だから(笑)

そしたらその先輩、カウンターの奥のおばあちゃんに大声で

「美味いっす!!」

おばあちゃんもニッコリしてくれた。





そうか、こうするのか、人付き合いというものは。





別に誉めたからといって何かおまけしてもらえるわけではないんだけどさ。

でもたった一言で店内の空気が変わるんだよね。何だか俺までハッピーな気分になる。



・・・あれ? 俺、すっげー当たり前のことに感激してた?


でも当時の俺にはものすごく新鮮だったんだよ。

あれからだんだんと、自分の気持ちをちょっとずつ表現できるようになった。
お店だけじゃなく、いろんな人に対して。



俺にとっては彼が原子核か何かの専門家であることも外国語の達人であることも関係なかったな。

自分から赤の他人に感情表現するということを教えてくれた恩人だ。




横須賀でそんなことを思い出してた。